西村(ソチョン)完全ガイド2025:景福宮の西、路地に息づくソウルの古い魂
2018年の春、初めて西村を歩いた時のことを覚えています。
景福宮駅から出て、細い路地を奥へと進むと、時が止まったような風景が広がっていました。低い韓屋の屋根、狭い路地、角から漂うコーヒーの香り。「ここが本当にソウルの中心部?」と思いました。
この7年間、何度も西村を歩きました。小さなギャラリーを訪れ、路地のカフェでコーヒーを飲み、通仁市場でお弁当を組み立てました。季節ごとに違う顔を見せるこの街が、どんどん好きになっていきました。
西村(ソチョン)は「宮殿の西側の村」という意味です。朝鮮時代には中人階級と文人たちが集まって住んでいた街で、今ではギャラリーとカフェが溶け合う感性あふれる街に生まれ変わりました。
今日は、7年間歩いて発見した西村の隠れたストーリーをお伝えします。
西村の誕生:王宮のそばの文人の村
「西村」という名前は、実は歴史が長くありません。朝鮮時代には「順化坊」「積善坊」「通仁坊」といった行政区画の名前で呼ばれていました。
景福宮の東側の北村に両班(ヤンバン、貴族階級)が集まって住んでいたとすれば、西村には中人階級と文人が住んでいました。科挙試験に合格しなかった書生、通訳官、医官などの専門職従事者たちが集まって住んでいた街だったのです。
西村を歩くと、「孝子洞」「通仁洞」「青雲洞」といった地名を目にします。孝子洞は親を大切にした孝子が住んでいたという意味で、通仁洞は宮廷で使い走りをしていた通人たちが住んでいた場所です。
地域のご老人に聞いた話があります。1960-70年代までは西村は貧しい街だったそうです。急な路地、古い韓屋、共同井戸を使っていた時代。「あの頃は北村が金持ちの街で、私たちは貧しい西村だった。」
宝安旅館から宝安1942へ:芸術家のアジト
西村を語る時に欠かせない場所が宝安1942です。
1942年に建てられたこの建物は、2004年まで旅館として営業していました。宝安旅館。かつては貧しい芸術家たちが部屋代の代わりに絵を描いて泊まっていった場所です。
詩人の尹東柱もこの近くをよく歩き、画家の李仲燮も西村の路地を描きました。2007年、宝安旅館が閉店の危機に直面した時、芸術家たちが集まって複合文化空間として生まれ変わらせました。
今の宝安1942は、1階にブックカフェ、2-3階に展示スペースがあります。古い階段を上ると、かつての旅館の痕跡がそのまま残っています。きしむ木の階段、狭い廊下、小さな部屋たち。
私が好きなのは、2階の窓から見える西村の屋根です。低い韓屋の屋根の間から仁王山が見えるんです。
通仁市場:ヨプジョンでつくる自分だけのお弁当
西村に来たら必ず立ち寄るべき場所が通仁市場です。
1941年、日本人が去った後に西村の住民たちが作った小さな市場。最初は生活用品を売る市場でしたが、今では「ヨプジョン弁当カフェ」で全国的に有名になりました。
ここのシステムが面白いです。カフェで5,000ウォンを払ってヨプジョン(昔のコイン)をもらいます。そのヨプジョンを持って市場の店を回りながら好きなおかずを選んで詰めるんです。
トッポッキ、天ぷら、おにぎり、オデン、マンドゥ、キンパ...本当に種類が豊富です。一番人気なのはオデン屋さんと油トッポッキ。列が長いです。
私のコツはこれです。早すぎると準備ができていない店が多く、遅すぎると材料が切れます。午前11時から午後1時の間がちょうどいいです。
全部詰めたお弁当は2階の韓屋スペースで食べられます。窓の外に広がる西村の路地を眺めながら食べるお弁当の味は本当に特別です。
路地の中のギャラリー:アートが息づく街
西村を歩くと、驚くほど多くのギャラリーに出会います。
小さな韓屋を改造したギャラリー、古い洋館を展示空間に変えた場所、路地の角に隠れたアートショップ。西村は自然に「ギャラリー村」になったんです。
PKMギャラリーは現代美術の展示を主に行っています。三清洞に本館があり、西村にもあります。国内外の有名作家の作品を見ることができます。入場無料です。
狭い路地を歩いていて突然現れるギャラリーの入口を発見する楽しみがあります。「ここもギャラリーだったんだ!」という瞬間です。
ほとんどのギャラリーが無料観覧で、静かに入って作品を見て出れば大丈夫です。気負わず現代美術に触れることができる場所です。
カフェツアー:韓屋からモダンまで
西村のカフェは大きく2つのスタイルに分かれます。
韓屋感性カフェ
韓屋をそのまま活かしたカフェが多いです。中庭に座ってコーヒーを飲み、韓屋の軒先で本を読み、障子戸越しに差し込む日差しを感じることができます。
冬は暖かいオンドル部屋に座っていると本当に心地よいです。夏は中庭に涼しい風が吹きます。
モダンデザインカフェ
古い建物を現代的にリモデリングしたカフェも多いです。むき出しのコンクリート、大きなガラス窓、ミニマルなインテリア。古いものと新しいものが調和した空間です。
カフェオニオン安国店はパンを焼く香りが路地まで広がります。大きな窓から差し込む日差しがきれいです。
私が好きなのは名前のない小さなカフェです。看板も小さく、SNSにもあまり出てこない場所。路地を歩いていて偶然見つけるようなカフェで飲むコーヒーが一番美味しいです。
世宗村食文化街:ローカル名店の宝庫
通仁市場から紫霞門路方向に歩くと「世宗村食文化街」が出てきます。
ここは本当にローカルな名店が多いです。観光客より地域住民がもっと多く訪れる場所です。
スンデクッパ屋、麺屋、粉食屋、トッポッキ屋...価格も安く量も多いです。お昼時には近くの会社員で賑わいます。
私がよく行くのは小さなカルグクス屋です。おばあさんが直接生地を伸ばして作る手打ち麺。スープの味が濃厚で麺がもちもちです。価格は7,000ウォン。
こういうお店は看板も大きくなく、SNSにもあまり載っていません。ただ路地を歩いていて「あそこ人が多いな?」と思う場所がほとんど名店です。
仁王山の麓:隠れた散策路
西村の北の端は仁王山の麓です。
仁王山の麓道に沿って歩くと玉仁洞、青雲洞の路地が出てきます。傾斜がかなり急ですが、その分景色が良いです。
青雲公園から眺めるソウル市内の展望が本当にきれいです。特に夕暮れ時の夕焼け。韓屋の屋根の向こうに南山タワーが見えるんです。
春には桜が咲き、夏には緑が茂り、秋にはイチョウの木が黄色く色づきます。冬には雪が積もった路地が絵のようです。
散策路の途中にベンチがあります。そこに座って街を見下ろすと、時間がゆっくり流れていく気分になります。
尹東柱文学館:詩人が歩いた道
青雲洞の仁王山の麓に尹東柱文学館があります。
尹東柱は延禧専門学校(今の延世大学)の学生時代、この近くの下宿屋に住んでいました。仁王山に登って詩を書き、西村の路地を歩いて星を数えました。
文学館は古い貯水タンクを改造して作った独特な空間です。展示室、詩聴空間、開いた井戸(野外空間)の3つの部分に分かれています。
一番印象的だったのは「閉じた井戸」という空間です。狭くて暗い空間に座って尹東柱の肉声朗読を聞くことができるんです。彼の詩「序詩」が響き渡る時、胸が熱くなりました。
文学館の屋上に上がると仁王山とソウル市内が一望できます。尹東柱もこの景色を見て詩を書いたのでしょうか?
観覧情報
- 観覧料:無料
- 休館日:月曜日
- 時間:10:00-18:00
西村の変化:2018年と2025年
私が初めて西村を歩いた2018年と今の2025年、かなり変わりました。
一番大きな変化はカフェと飲食店が増えたことです。以前は静かだった路地に人が溢れるようになりました。週末は本当に多いです。
古いお店が一つずつ消えていくのが残念です。40年続いた文房具店、50年の洗濯屋、町の雑貨店...賃料が上がって閉店する場所が出てきました。
でも良い変化もあります。若い芸術家たちがもっと入ってきて、独立書店、手作り工房のような個性的なお店ができました。路地ごとにストーリーのあるお店です。
最近は持続可能性を考えるお店が増えています。プラスチックを使わないカフェ、地元の食材を使う食堂、リサイクル製品を売るショップ。
西村が依然として西村らしい理由は「路地の温度」が残っているからです。北村や益善洞のように完全に観光地化せず、まだ地域の人たちが住んでいる場所だからです。
西村ウォーキングコース推奨
コース1:基本西村ツアー(2-3時間)
景福宮駅3番出口 → 通仁市場弁当 → 宝安1942 → 孝子ベーカリー → 世宗村路地 → 水声洞渓谷 → 青雲公園
平地中心なので楽に歩けます。通仁市場でお昼を食べて、路地をゆっくり巡るコースです。
コース2:ギャラリーツアー(3-4時間)
景福宮駅 → PKMギャラリー → 路地ギャラリー巡り → 宝安1942展示 → カフェで休憩 → 通仁市場
美術好きの方におすすめです。無料ギャラリー中心に回りながら現代美術に触れられます。
コース3:仁王山麓道(3-4時間)
景福宮駅 → 通仁市場 → 青雲洞路地 → 尹東柱文学館 → 青雲公園 → 仁王山周遊路 → 水声洞渓谷
傾斜があるので体力が必要です。でも景色が本当にきれいです。運動靴必須!
実用情報:西村を200%楽しむ
アクセス
地下鉄
- 3号線景福宮駅2番、3番出口(西村南入口)
- 3号線安国駅1番、2番出口(西村東側、北村境界)
- 5号線光化門駅2番出口 → 徒歩10分
バス
- 幹線バス:1020、7022、7212
- 支線バス:1711、7016、7018
景福宮駅から始めるのが一番便利です。2番出口を出るとすぐ通仁市場です。
いつ行くのが良い?
平日午前(10-12時):一番静かです。カフェでゆっくり座れて、路地を静かに歩けます。
平日ランチ(12-2時):通仁市場弁当作りに良い時間。世宗村名店もランチタイムに行くべきです。
週末午前:早く行けば大丈夫です。10時前に行くと人が少ないです。
避けるべき時間:週末午後(2-5時)。本当に人が多いです。カフェは待ち、通仁市場は行列。
季節別おすすめ
- 春(4-5月):桜咲く路地がきれい
- 夏(6-8月):韓屋カフェの中庭が涼しい
- 秋(9-11月):西村最高の季節!イチョウが黄色く色づく
- 冬(12-2月):雪の降った韓屋風景が風情ある
予算ガイド
西村は北村や三清洞より安いです。
リーズナブル(1人15,000ウォン以下)
- 通仁市場弁当:5,000ウォン
- 世宗村クッパ/カルグクス:7,000-9,000ウォン
- 町のカフェアメリカーノ:4,000-5,000ウォン
ミドル(1人20,000-30,000ウォン)
- 韓屋カフェブランチ:12,000-18,000ウォン
- パスタ/洋食レストラン:15,000-25,000ウォン
- ベーカリーカフェ:10,000-20,000ウォン
プレミアム(1人40,000ウォン以上)
- ファインダイニング:50,000-100,000ウォン
- コース料理:60,000-150,000ウォン
ランチは通仁市場や世宗村で安く済ませて、カフェでゆっくりするのが私のスタイルです。
服装と持ち物
靴:楽な運動靴必須!路地が狭くて石道も多いです。仁王山麓道に行くならなおさら必要です。
服装:西村は楽な雰囲気です。あまり格式張った服よりカジュアルが合います。
持ち物
- カメラ(路地の風景が本当にきれい)
- エコバッグ(通仁市場ショッピング用)
- 水筒(歩くコースなので水が必要)
地元民の視線
7年間西村を歩いて学んだことがあります。この街は「ゆっくり」が魅力だということです。
北村や明洞のように観光名所を撮って行く場所ではありません。路地をゆっくり歩き、小さなお店に入ってみて、カフェに長く座って、偶然見つけたギャラリーで展示を見るんです。
西村を歩く時はGoogleマップを消してください。ただ足の向くままに歩いてみてください。路地の先に何があるかわからないそのドキドキ感が西村の本当の魅力です。
そしてゆっくり歩きながら建物を見てください。100年の韓屋の隣に50年の洋館、その隣に建てて5年のカフェ。時間の層が積み重なっている街です。
地域のご老人にあいさつしてください。「こんにちは」の一言で大丈夫です。その方々が一生守ってきた街を私たちが歩いているんですから。
よくある質問
Q:西村と北村の違いは何ですか?
A:北村は朝鮮時代の両班が住んでいた街、西村は中人と文人が住んでいた街です。北村の方が大きくて観光地化されていますが、西村はまだ町の雰囲気が残っています。北村は韓屋見学、西村は路地の雰囲気を楽しむのに良いです。
Q:初めてならどこから始めればいいですか?
A:景福宮駅2番出口から出て通仁市場から始めてください。ヨプジョン弁当を作って食べて、宝安1942を見て、路地を歩きながら気になるカフェに入る。3時間で十分です。
Q:一人で行っても大丈夫ですか?
A:西村は一人で歩くのに本当に良い街です!カフェに一人で来た人が多く、ギャラリーも一人で見るのに良いし、路地散策は一人の方が自由です。昼間はとても安全で夜も路地に明かりがついています。
Q:通仁市場弁当は必ず食べなければいけませんか?
A:必須ではありませんが面白い体験です!ヨプジョンを持って店ごとに回りながらおかずを選ぶのが楽しいんです。ランチ兼体験として良いです。でも人の多い週末は列が長いです。
Q:駐車は可能ですか?
A:駐車は本当に難しいです。路地が狭くて駐車スペースがほとんどなく、住民駐車区域がほとんどです。景福宮駐車場や光化門公営駐車場に停めて歩いてくるのが良いです。正直、公共交通機関をおすすめします。
Q:子供を連れて行っても大丈夫ですか?
A:路地が狭くて傾斜した場所も多いのでベビーカーは不便です。歩ける子供なら大丈夫ですが、通仁市場やカフェは狭くてベビーカーで回るのが大変です。むしろ抱っこ紐をおすすめします。
Q:西村から景福宮に行けますか?
A:はい!西村から徒歩5-10分で景福宮の西側入口(迎秋門)が出てきます。景福宮を見て西村に出てきてランチを食べるコースが良いです。景福宮-西村-三清洞を続けて歩く方も多いです。
Q:冬でも大丈夫ですか?
A:冬の西村もきれいです!雪の降った韓屋路地が本当に風情があるんです。ただ仁王山麓道は雪が降ると滑りやすいので注意してください。暖かい韓屋カフェのオンドル部屋に座っていると本当に心地よいです。




